その高給が報道姿勢に影響していないか
以下は、07年3月10日付の『読売新聞電子版(YOMIURI ONLINE)』に載った記事の要約である。
「番組制作会社で構成する全日本テレビ番組製作社連盟(ATP、工藤英博理事長)は9日、関西テレビの『発掘!あるある大事典2』捏造(ねつぞう)問題について、加盟88社を対象に行った緊急アンケート調査の結果を公表し、同番組の孫請け制作費は、過去10年間で半減していたことを明らかにした」「1本あたり1600万円の制作費が支払われていたが、以後4度にわたって減額されたと証言。今年1月の番組打ち切り直前は、860万円にまで下げられていたという」「また、アンケートでは27社が、発注費のキックバックや接待の要求など、テレビ局が優越的な地位を乱用するケースがあったことを指摘している」
これに関しては『文芸春秋』4月号に詳しい記事がある。ここにはスポンサーの花王が電通に払った金額の約1億円が、制作会社へ支払われる段階では860万円になる仕組みが説明されている。
さらに、『週刊東洋経済』(06年10月7日)によると、親会社のフジテレビの生涯給与は全上場会社中2位の5億7243万円(1位は朝日放送で5億7570万円)。業界別比較においても、放送業11社の平均額は4億4287万円で突出している。ちなみに業界2位の石油・石炭製品業13社の平均額は2億9104万円である。
ついでながら、以下は『J-CASTニュース』(07年1月16日)が報じた「『55歳年収2,100万』朝日総局長が流出させた驚愕『家計情報』」の要約である。
「朝日新聞の静岡総局長の私有パソコンから、個人情報と業務関連情報がネット上に流出した」「『家計情報』によると、40代後半の総局長の年収は約1900万円。55歳時に2100万円まで上昇、その後、年約175万円減少。退職金の見込み額3000万円、退職後の収入(嘱託、年金計)が700~1000万円などと書かれている」
新聞社は給与実態を秘密にしているので、漏れるとこんな騒ぎになるのだろう。ただ、放送局の給与水準はさらに高い。なぜこんなことを紹介したかというと、その背景に興味があるからである。
第1は、放送業界は局、下請け、孫請け、の3階層になっていて、実際に制作するのは孫請けが多いという現状がある。局は、強い立場でこの業界に君臨している。この下部構造の犠牲の上に、局の高収益が支えられていると言える。つまり、自ら格差構造を作り上げたのである。
2番目は、業界の寡占体制である。実質的な新規参入ができない体制が独占的な利益(超過利潤)を生み出している。小泉改革もここには及ばなかった。
3番目は、放送業界の拝金主義といってもよいほどの収益に対する熱意が挙げられるだろう。実現した日本一の給与は、長年にわたる不断の努力の成果である。収益への努力があまりに熱心なために、メディアとしての役割を忘れてしまったのだろう。
放送業界が超過利潤を上げていることは決してわれわれの生活に無関係ではない。CM費が高く維持されていることは、商品のコスト要因になり、結局のところ、それを消費者が負担しているわけだ。
一方の新聞業界の高給システムは、下請け構造から生まれるものではないだろうが、新規参入のむずかしさに伴う2番目と3番目の背景は、放送業界と共通すると思われる。
組織が恵まれた環境にあると、それを維持しようとするインセンティブ(動機)が強く働く。その結果、メディアとして果たすべき役割は軽視されがちとなるのだろう。
86年から99年にかけ、4度にわたり所得税の累進税率が緩和され、最高税率は70%から37%になった。これは高額所得者を優遇する政策で、格差を拡大する方向だった、にもかかわらず、メディアが積極的に取り上げなかったので、ほとんど議論にもならなかった。理由は自分たちの所得が高く、減税の恩恵を享受する立場であったことによるところが大きいと思われる。そういう人たちが今、仕方なく格差問題を取り上げている。
格差社会の上位に位置し、その利益を享受している彼らが、本気で格差社会を変えようとするか、怪しいものである。格差の是正が進めば、つまり平準化が起これば、彼らの所得も下がらざるを得ない。それとも、自分たちの業界だけは別扱いの秘策でもあるのだろうか。