“痴漢えん罪”事件の被告が実名で告発
痴漢といえば満員電車。こんな先入観を持っていないだろうか。これはとんでもない思い込みであり、現実には、空いている電車、駅のホーム、デパート内、路上……ありとあらゆるところで「痴漢えん罪事件」が起きている。
つまり、男である限り、一歩家を出れば、いつ、どこで、なんどき痴漢犯にされてもおかしくないのが実態なのだ。
■いつでも、どこでも痴漢犯人に
デパートの地下食料品売り場で女性とすれ違いざまに接触しただけで痴漢犯人にされた、横浜市の高校教師(現在休職中)の河野優司氏(54歳)もそのひとり。
「頻発する痴漢えん罪を放置できない」「それでもボクはやってない」と実名で痴漢えん罪の実態を語った。
■映画『それでもボクはやってない』にそっくり
2006年1月15日、横浜高島屋の地下を歩いていた河野氏は女性と接触、つまり“1秒あるかないか”の瞬間の出来事で逮捕され、同年10月12日、懲役4カ月執行猶予・起訴・有罪判決を受けたのである。即日控訴し、現在は控訴審に備えている。
「痴漢えん罪をテーマにした周防正行監督の映画『それでもボクはやってない』のディテールと私のケースはそっくりです。
あの日は、娘が初めて高島屋の地下でバイトを始めていたので、そっと様子を見ておこうと現場まで行ったのです。エスカレーターを降りて10メートルほど歩いたところで右肩が誰かとぶつかり、その直後に左肩も誰かと接触しました。
娘が働いている店まで20メートルもない地点まで来たら、とつぜん若い女性に左手をつかまれ『あなたでしょ!触ったでしょ!』と大声で叫ばれました」
こうして警察に逮捕されてしまった河野氏だが、何を話しても刑事は「触ったと認めろ」というばかりでまったく聞く耳もたず。自白を強要するのみで調べになっていなかったという。
ほとんど取り調べさえないまま25日間も留置場に留め置かれた。
■起訴前調書が隠されていた!?
裁判が始まってから、不審な点が次々に発覚した。
たとえば、起訴前に被害者とされる女性の調書がなかったこと。さらに河野氏の供述調書4通のうち、1通だけしか裁判所に提出されていなかったのだ。
「娘のバイト先に行こうとして、たどりつく直前に痴漢行為などするわけないのですが、そのことを話した調書も、右手でカバンを持っていたこと(河野氏の右側と相手の女性の右側が接触した)を話した調書も出されなかったのです。
それに被害者の起訴前調書を出さずに、起訴した後で、起訴状に沿って調書を作成すれば、いくらでも犯人に仕立てられます」と河野氏は憤る。
多くの人は、警察や検察の調書や証拠がすべて裁判所に提出され、十分な審議が行われていると思うであろう。しかし、この事件のように、最初から重要な証拠を警察・検察が隠している実態がある。
「被害者」の供述があやふやで、変遷していったことは公判の証人尋問で明らかだ。「ぽん、と触られた感じがした」と証言していたのに、公判では検察の質問に答えるように、「お尻のかたちにそって触られたような……」というように妙に具体的な表現に変わっている。
あるいは「はっきり覚えてないです」「記憶にないです」というあいまいな証言が、証人尋問で明らかになった。
さらに、裁判の過程で「被害者」は若い男性とカップルでいたことがわかった。この「若い男」の存在について明らかにしようと、弁護側は証人の再喚問を申請したが裁判所は却下。この件については闇に葬られて判決が下されたのである。
■有罪率99.9パーセントという刑事裁判の実態
逮捕されると留置場に入れられ、取調室という密室で24時間、被疑者は管理される。睡眠、排泄、食事、水を飲むこともすべて自由にできない。密室のなかで、刑事は「自白しろ」と責め立てるだけで、きちんとした捜査と取調べが行われないこともめずらしくない。
起訴されて裁判がはじまっても、否認すれば釈放せずに被疑者・被告人を長期間拘束し、肉体的、精神的に弱らせ自白を迫る。これを「人質司法」という。
その結果、日本の刑事裁判における被告の有罪率は99.9パーセント。裁判が始まる前から結果がわかっている茶番劇だ。
「そりゃ、おかしい。でも一部の人のことでしょ、犯罪なんてオレには関係ないよ」と無関心な人がふつうだろう。
なるほど、殺人や強盗事件に普通の人がかかわることはまずないだろう。だが、「痴漢」に関しては、いつでもどこでも「普通の人」が犯人に仕立てられる。
有罪率99.9パーセントという“司法の罠”に、今日にでもあなたがハメられるかもしれないのだ。