裁判傍聴は「権力の監視」
「グロービートジャパン・平和神軍事件裁判」の第14回公判が10月27日、東京地裁・第426号法廷(警備法廷)で行われた。これは、Webサイト上の表現が名誉棄損で起訴された、日本で最初の、そして唯一の刑事裁判である。
訴えたのは、ラーメン花月などのチェーン店を展開するグロービートジャパン株式会社。訴えられたのは、個人で運営しているウェブサイト「平和神軍観察会」である。裁判の争点などは、前回の記事を読んでいただくとして、今回は「刑事裁判の傍聴」について簡単に説明してみたい。
基本的に刑事裁判は、すべて一般に公開されており、誰でも傍聴(見学)することができる。日本国憲法第37条で「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」となっていて、また同82条において「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」と決められているからだ。これがいわゆる「裁判公開の原則」である。
では、なぜ憲法で決められているのかというと、権力者が密室裁判で自分にとって都合の悪い人物を裁いてきた、歴史的経緯への反省からである。つまり傍聴は、単に興味本位から行えるのではなく、「権力の監視」を実現するための「国民の権利」なのである。
さて、今回の公判では、裁判官変更による更新手続きと、新たな証拠の提出が行われた。証拠は、まず平和神軍の教祖がグロービートジャパンに影響力を持っていることを立証するため、平和神軍の発行する月刊誌『正理』が提出された。内容は、グロービートジャパンの経営戦略を教祖が語るものとなっている。そして、同人物が宗教法人を1億円以上で売った契約書が提出された。さらに、平和神軍が実在することを立証するため、同人物が以前、役員を行っていた宗教法人が訴えられた裁判で証言した際の証人尋問調書が提出された。
これまでの公判において、グロービートジャパン社長の黒須伸一氏および副社長の靏見嘉弘氏はそれぞれ、「平和神軍は、教祖の頭の中だけにある空想の団体」という旨の証言をしていたが、教祖が以前の裁判で行った証言は「いろいろな宗教団体を持っているが、戦う部隊として『平和神軍』がある。これは、統一協会やオウム真理教と戦争をするための団体だ」と、存在をうかがわせる内容だった。
ところで、裁判を経験または傍聴したことのある方ならお分かり頂けると思うが、通常の民事裁判は主に書面のやり取りで進行する。証拠も裁判官に提出すればそれでOKで、傍聴人からはどのような証拠が提出されたのか傍目(はため)には分からない。にもかかわらず、私が証拠の内容を知っているのは、刑事裁判においては、証拠の提出の際に要旨の説明が行われるからだ。どのようなことを立証するための証拠で、どのような内容なのか、傍聴人はそれを聞くことができる。ここが民事裁判とは大きく違う点となる。
前述のように、刑事裁判は権力の監視のために公開されている。しかし、ただ公開されていても部外者には意味が分からない。そこで、何を行っているのか傍聴人にも分かるようにするため、起訴状をはじめとするさまざまな書面の内容説明が、口頭で行われる。ニュースなどで「検察が起訴状を朗読した」というのは、本当に全文を朗読しているのである(ちなみに民事では「書面の通り陳述します」と述べるだけで、簡略化が図られている)。
公判終了後、弁護人の紀藤正樹弁護士にインタビューを行ったところ、「ジャンヌ・ダルクは、裁判によって火あぶりの刑に処せられました。そう言ったことが起こらないよう、みんなで監視するといった発想があり、その延長線上に傍聴制度があります。弁護人として、分かりやすい裁判を心がけていくつもりなので、ぜひ見に来て欲しい」とのこと。時折、「選挙に行かないのは、せっかくの権利を放棄する愚かな行為だ」との論調も見られるが、そういった人でも“傍聴の権利”を行使したことがある人はまれだろう。
次回公判は、11月20日(月)13時30分から、東京地裁426号法廷で行われる。弁護人側証人に対する証人尋問が予定されているため、「異議あり!」といった場面も見られるかもしれない。Web上の表現の自由に関心のある方は、傍聴してみてはどうだろうか?