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    • 「悪徳商法?マニアックス」管理人が「はてな」を提訴

嫌がらせの具体的な内容が問題

ウェブサイト「悪徳商法?マニアックス」(悪マニ)の管理人である吉本敏洋氏が2008年6月10日、「株式会社はてな」(近藤淳也社長)を提訴した。請求内容は嫌がらせを放置したことによる100万円の損害賠償と、嫌がらせ実行者の発信者情報の開示である。

 「はてな」はソーシャルブックマーク(はてなブックマーク、はてブ)などのネットサービスを提供する企業である。「悪マニ」のサイトによれば、吉本氏は「はてな」のサービス上で度重なる嫌がらせを受けていたという。しかし善処を求めても「はてな」は有効な対策を実施せずに放置したと主張する。

 吉本氏の提訴以前から「はてな」は個人への誹謗(ひぼう)中傷に対して甘いと指摘されていた。特に「はてブ」を利用して、ブログ作者が嫌がるようなコメント付きでブックマークする嫌がらせを深刻に受け止めるブロガーは少なくない。自分のブログが荒らされた場合、コメント欄を閉じ、トラックバックを受け付けないという手段を採ることができるが、ブックマークされることは拒否できないためである。

 吉本氏の運営する「悪マニ」は悪徳商法の告発サイトである。インターネット普及期の1997年から開設されており、告発サイトの草分け的な存在である。「悪マニに助けられた」「悪マニを読んだからだまされずに済んだ」という人も少なくない。

 記者にとっても悪徳商法の告発サイトは非常に関心がある。記者自身、東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実(隣地建て替えによる日照・眺望阻害、騒音)を説明されずにマンションをだまし売りされた被害に遭っているためである(記事「東急不動産の遅過ぎたお詫び」参照)。

 悪徳商法の被害者の1人として、悪徳商法の告発サイトには強いシンパシーを抱いている。しかし、今回の提訴が告発サイトの発展につながるか、という点では疑問がある。

 なぜならば、吉本氏が勝訴すればインターネット上の言論活動を委縮させる方向に働く危険があるためである。吉本氏は「悪マニ」上で「度重なる嫌がらせ」と「住所・氏名の掲載といった明らかなプライバシー侵害」を被害として挙げている。プライバシー侵害は事実ならば権利侵害となりうるが、ネガティブな書き込みを続けることによる嫌がらせを権利侵害として強制的に排除することは言論の自由を損なう危険がある。

 吉本氏の請求が正当化できるとすれば、排除する対象が違法な書き込みである場合においてである。しかし、何をもって違法とするかはひとつの判断である。告発サイトは誰かにとって都合の悪い内容を含む。告発サイトの存在自体が嫌がらせとして映るものである。それを容易に排除できるならば、告発サイトをつぶす論理として乱用されかねない。

 事実、吉本氏から嫌がらせの実行者と名指しされた人物は、自らのブログでの反論で吉本氏を言論の封殺者と批判する。その論理を「表現の自由を守ると主張しながらも自身への批判は一切許さない詭弁(きべん)」と切り捨てる。そして吉本氏と「はてな」の訴訟に独立当事者参加(民事訴訟法第47条)の意向を表明した。

 告発サイトの管理人が自己に都合の悪い書き込みの責任を追及することは、ある意味、喜劇的な自己否定になりかねない。吉本氏の主張する嫌がらせの具体的内容が問題になる。インターネット上での言論活動を委縮させる方向に進まないことを期待する。