倒産した光輪モータース従業員の再出発市、23日から
数多くのバイク用品店が軒を連ねている日本屈指のバイクタウンで、23日から「ワケあり」の超特売セールが始まる。
東京のターミナル駅のひとつである上野駅近くに位置するバイク街は、最盛期の80年代には約100軒ものバイクショップ、用品ショップが並び、バイク乗りの聖地とまで言われた。現在はバイク人口の減少などの影響により最盛期のおもかげは消滅。それでも数十軒が夏のバイクシーズンにむけて準備に余念がない。とりわけ23日から始まる70~90%引きという大乱売に熱気がムンムン。ただし、この非常識な大セールには裏がある。
バブルの最後の後始末
販売を行うのは、「元」光輪モータース従業員の有志13名。実はこのバイク街に20店舗を構えていた株式会社光輪モータースは、4月24日に若林久治社長(71)が自己破産を申請し事実上倒産している。負債は161億円。今回セールされるのは、差し押さえを逃れた在庫で、一斉に処分するセールなのだ。
光輪モータースは直近の売り上げは約年6億円という企業である。ゆえに161億円という負債は、もちろん一朝一夕でできたものではない。バブル期に、大手都市銀行(その後にメガバンクのひとつに吸収されていった債務超過銀行)と、上野を東北方面への新幹線の起点にふさわしい街へと開発をもくろんだ西武鉄道グループ。それにこの光輪モータースの若林社長が周辺の土地を買収する動きがあり、これでできた負債だ。
できあがった東北方面の新幹線は上野始発ではなく、東京駅が始発駅となった。発表と前後して西武グループは上野再開発から撤退。大手都市銀行は土地の買収のために利用していた光輪モータースに対して手のひらを返し、返済を求める側に回った。ピーク時の負債は300億円にのぼったという。
労働組合運動を熱心に行った従業員たち
たちまち経営を圧迫された光輪モータースは、「不当労働行為に対する賃金カット」を開始した。最近マクドナルドなどの飲食店で、店長という役職につけて残業代を払わない「偽装管理職」が問題になっているが、これと同様のトラブルが光輪労使間で発生したのだ。従業員は労働組合を結成。訴訟に持ち込んだ。偽装管理職の元祖は、光輪だったかもかも知れない。ともあれ13年前より労使間の交渉をつづけ、さまざまなトラブルもありながらも、光輪労働組合員たちは闘ってきた。
長い闘いの末、高裁で従業員への2700万円の支払いが決定したのは昨年9月だった。すぐにこの未払い賃金をもらう権利を行使すれば会社が倒産することを知っている従業員(労働組合員)は、判決が出たとはいえお金を受け取っていない。労働組合と経営者との関係の複雑さに「闘いを勝利した満足感」も「会社や社長への忠誠心を満足させること」のどちらの感情でもなく、明確な答えを出せない消化不良を抱えながら働き、社長の自己破産申請による倒産をやるせない気持ちで迎えた。
上野のバイク街において、多数の店舗をもっていた光輪である。倒産が決まると、労働組合が資産を守ろうと店に立てこもって赤い旗を立てると、街全体が朱に染まった。
労働組合の前向きな団結によって実現した
自己破産申請時には、未払いの給料があった。2年半にわたって、従業員の社会保険料が未払いだったことも発覚した。失業保険を受け取るために必要な離職票も、逃げた同然の若林社長から受け取っていない。せめて店にある在庫の資産を守ろうと、労働組合は店舗に泊まり込んで在庫のパーツを守った。管財人へ熱心に交渉をした。
今回激安で販売されるパーツは、こうして労働組合の人たちが守ったパーツたちだ。すべて売り尽くしてもたいした金額にならないことはわかっている。この「元光輪」スタッフのリーダー的存在である大原博文さんに聞いた。
「若林社長は、自己破産する少し前に1200万円もする新車のレクサスを買って従業員に見せびらかすなど、異常な行動をしていました。自己破産以前から労働組合の活動をおもしろく思わない社長とのトラブルはたびたびありましたので13名の仲間たちは、自己破産したうえに逃げている若林元社長に怒りをもっています。でも、みんないつまでも怒っていても始まらない、前向きに今後のことを考えようということになりました。光輪は倒れましたが、バイク街の灯を消すことはできないという気持ちで、新しいバイク用品販売店を開こうと決めたのです」
つまり今回のセールは、新しいバイク用品店をオープンさせる第1歩というワケだ。
販売されるパーツはどれも超激安!!
「バイク街の灯を消さない」というだけではなく、「雇用問題と労働組合に対するさまざまな思い」や「日本の経済に翻弄(ほんろう)された人たちの、やりきれない気持ち」「逃げた社長への愛想」など、さまざまな気持ちが交錯するなかで、バイクのパーツは販売される。
ヘルメットは高いものでも5000円以下、高価なレザー製のウエアやグローブも文字通りの捨て値。特にハーレーダビッドソンのカスタムパーツは大量の商品を確保できたそうだ。
期間は23日昼13時より18時まで。売り切れたときには終了するが、数日は保つ見込みだ。バイクの有料駐車場は、上野駅ロータリー脇にある。