マンション近隣対策の実態

高層マンション建設に際しての近隣対策の実態を示す文書が公開されたので報告する。デベロッパーから管理会社に新築マンションの近隣住民について説明する文書だが、近隣住民の身辺(職業、血縁関係)を不気味なほど調べている上、住民に対する誹謗(ひぼう)抽象表現に満ちている。

住民への身辺調査と誹謗抽象

 デベロッパーが、近隣住民を攻略すべき障害としか見ていないことを示す貴重な文書である。問題の文書は株式会社大京・東京支店から2002年11月19日付で大京管理株式会社に送信されたファクス文書「『LS小平』近隣関係」、および添付地図である。大京は大手マンションデベロッパーであり、大京管理は系列の管理会社で、現在は株式会社大京アステージに社名変更されている。LS小平は大京が分譲したマンション「ライオンズステージ小平」(東京都小平市天神町、9階建て、2002年11月竣工(しゅんこう))を指す。

 文書では、まずマンション東側の6軒の住民にそれぞれ補償費70万円~120万円を支払ったと記述している。マンション建設で被害を受ける住民に金銭を支払う例は多いが、具体的な金額が明かされている点で貴重である。

 続いて近隣住民のおのおのを説明し、注意点を述べているが、その内容に驚かされる。大別すると近隣住民に対する身辺調査と誹謗抽象表現の2点。

 第1に近隣住民の職業や血縁関係など、近隣対応に必要とは思えない範囲まで調査している。「○○の労働委員会所属」、「○○消防自動車運転手」などと、どこで入手したのか、勤務先以上の情報を得ている。情報の入手自体も問題だが、入手した情報を近隣関係への配慮のために生かそうとする姿勢が微塵(みじん)もないことにも驚かされる。

 ファクス文書には、「消防署勤務のため、昼寝て、夜間仕事の時もあり、工事中は、振動騒音等で、文句多かった」などと書かれている。夜勤のために昼間寝なければならない人にとって、建設工事の騒音や振動は耐えがたく、苦情が出るのは自然である。しかし、大京は苦情が出る背景まで調査していながら、文句が多いとしか受け取っていない。住民に対し、配慮しようという姿勢も迷惑をかけたという反省も皆無である。

 血縁調査についても詳しく調べている。「嫁の実母」、「兄弟ですが、あまり仲良くないと感じました」などである。このような情報が近隣対策にとって何の役に立つのか理解に苦しむ。

 私自身、東急不動産とのトラブルでは東急不動産の代理人弁護士に管理組合理事長をしていることや、私自身の年収、家族構成について暴露された上、ブローカーに勤務先にまで圧力をかけられ、東急不動産の物件には住んでいられないと思ったものである(記事「東急不動産の遅過ぎたお詫び」参照)。

ゴネる以外に方法がない

 次に気になるのは近隣住民への誹謗中傷表現である。前述の6軒の住民を「この連中」と呼んでいる。しかも「性格異常者」、「しつこい、うるさい、ばばあ」と罵倒(ばとう)表現のオンパレードである。苦情の多い住民のみならず、大京が相対的に良好な関係を保(たも)てた住民に対しても「暗~い感じの人」とネガティブな表現をしている。

 ファクス文書では引っ越し・マンション関係の車両の路上駐車場所についても指示している。道路Aは路上駐車に対し、近隣住民から苦情が出たため、道路Bに駐車することを指示する。道路Bに駐車してもクレームはないとの予想のためである。

 ここで注目すべきは、大京にとって路上駐車場所の判断基準が苦情の有無という点である。このファクスが出された2002年時点は路上駐車についての運用が現在と異なるため、「路上駐車を推奨するとはけしからん」という類の主張をするつもりはない。問題なのは大京の「近隣住民に迷惑をかける場所では路上駐車をしない」ではなく、「苦情が出る場所での路上駐車を避ける」という発想である。

 マンション建築紛争では業者寄りの立場から住民の、いわゆる「ゴネ得」に対して厳しい視線が向けられることがある。

 しかし、本件の大京のように住民の迷惑をかけないように自発的に配慮するという姿勢がなく、苦情が出るか否かで対応するのでは、住民としてもゴネるよりほかに対策がなくなる。

 最後に本資料の出どころについて説明する。本資料は大京労働組合のウェブサイトに公開されたものである。大京労働組合では本資料の公開を公益通報と位置付け、近隣住民に対し、大京への抗議、および法的請求を推奨する。マンション建築紛争は全国各地で発生し、反対運動も組織化されてきているが、デベロッパー内部の実態は本件のような内部告発がなければ明らかになりにくい。大京管理組合の勇気ある内部告発に感謝したい。