福島県立大野病院事件第6回公判、専門医が検察側有利の発言
今回出廷したのは、事件後に福島県警から依頼を受け、鑑定書を作成した新潟大学医学部産科婦人科学の田中憲一教授。検察側証人として唯一、産婦人科専門医として鑑定を行った同教授は、「術前検査のエコー写真から、胎盤の癒着があるとの診断はできないが、疑ってもいい徴候(ちょうこう)は認められる」と述べた。
尋問ではまず、産婦人科学の一般論として
「(胎盤と子宮筋膜が)強固に癒着している場合は、執刀医は無理な胎盤剥離(はくり)を継続すべきではない。(手術用はさみなど)器具を使った剥離もすべきではない。無理な剥離になる場合は、剥離を中止し、子宮を摘出すべきだ」
とし、子宮収縮を促すために胎盤剥離を継続した加藤医師の判断は誤りとする検察側の主張に合致する証言をした。
さらに、この女性のケースに関しては、術前エコー検査の写真から
「(子宮筋層と胎盤のあいだに)血流があると疑われる所見が認められる」
と、子宮筋層深くに胎盤絨毛(じゅうもう)が入り込む陥入胎盤もしくは穿通(せんつう)胎盤とみられる癒着が疑われる所見が見られることを指摘。
胎盤剥離におよそ15分と時間がかかっていることなどからも、胎盤の癒着は広範囲で深いものであったとして、無理な剥離がその後の大量出血の引き金になったとする検察側主張を裏付けた。
これに対し弁護側は、同教授が産婦人科のなかでも婦人科腫瘍が専門で、周産期が専門ではないこと、癒着胎盤の症例を経験したのは約30年前に助手として立ち会った1例しかないこと。さらに、作成された鑑定書(以下、田中鑑定)は、産婦人科学の教科書や文献、福島県立医大の病理医・杉野隆医師による鑑定書(同、杉野鑑定)を参照して書かれたものである点を追及。
何をもってどの程度を「無理」というのか、「剥離は無理」という判断は誰がするのかについて、
「術者(執刀医)の判断」
「ケース・バイ・ケース。もう1人子供が欲しいという患者の希望がある場合は、できるだけ(胎盤を剥離して)子宮を残すようにする」
「癒着の範囲が狭いとか、深さはどのくらいかと聞かれても、何とも言いようがない」
と、現場は教科書どおりにはいかないことを示唆する証言を引き出した。
また、同教授は「自分の鑑定書に変更はない」と明言したが、参照にした杉野鑑定は、先の公判で一部変更されていることには「(変更は)知りません」と言葉をつまらせる場面もあった。
なお、田中鑑定はこれまで証拠採用されていなかったが、今公判の冒頭で、単位や日付、出血量、字句などの誤記20カ所以上について訂正が行われたのち、証拠採用された。
今回で検察側証人尋問は終了する。次回は8月31日に、被告への本人質問が行われる。