名誉棄損「刑事」裁判 教祖証言で終盤戦突入
「グロービートジャパン・平和神軍事件裁判」の第18回、第19回公判が、6月18日と19日の2日間にわたり、東京地裁の第428号法廷(波床昌則裁判長)で行われた。同裁判は、ウェブサイトの表現が名誉毀損で起訴された、日本で最初にして唯一の刑事裁判である。
訴えたのは「ニンニクげんこつラーメン花月」チェーンを運営するグロービートジャパン(東京都杉並区)。個人ウェブサイト「平和神軍観察会」で、右翼系カルト宗教団体「日本平和神軍」やニセ大学「イオンド大学日本校」(本校・ハワイ。文科省所管の「大学」ではない株式会社)との関連性を暴露され、営業的な損害を受けたとして、名誉毀損で同サイトの管理人を訴えたもの。
この裁判では、同社と平和神軍に一体性があるかのように記述したサイト上の表現について、その真実性や相当性を巡って争われている。被告人の弁護人である紀藤正樹弁護士によると、「職業ジャーナリストではない普通の人にとって、どこまでの表現が許されるかが問われている重要な裁判」とのことで、私は第1回から継続して傍聴している。
今回の公判では、平和神軍の教祖であり、同大学の創立者にして、同社の自称会長である黒須英治氏への証人尋問が行われた。英治氏は、同社の社長と副社長の父親でもある。今回は同社と平和神軍に繋がりが無いことを証明するため、検察側の証人として証言に立つこととなった。これまでの公判では社長と副社長が証言を行っているが、英治氏は同事件の最重要人物である。
英治氏への証人尋問は、両日とも午後1時30分から午後5時まで行われた。休憩を除いても6時間20分という長丁場であったが、「500人以上の信者(証言より)」を持つ教祖の証言だけあって、傍聴席も満席となり、入廷できない人も出た。
支離滅裂な受け答えに傍聴席からは失笑が
証人尋問が始まるにあたり、英治氏は若干緊張した面持ちで登場。
証言台で宣誓した後、か細い声で「椅子に座っても、よろしいですか?」と裁判官に尋ねていた。しかし、神妙な様子もそこまで。検察から10分ほど差しさわりの無い質問をされ、「平和神軍とは何ですか?」と聞かれた際には、若干早口だが良く通る大きな声で、嬉々として活動内容を語っていた。
弁護人からの反対尋問に対しては、終始、独特な自説を披露。聞かれても無いことに対して関係の無い主張を延々と繰り返し、受け答えの支離滅裂さや考え方の異常さに対して、傍聴席からは失笑が漏れる場面が何度もあった。
証言は、おおむね同社と平和神軍の繋がりを暗に認めるようなものであった。たとえば、社長は、
「妻が平和神軍の機関紙に名前を出しているということだが、活動もしていないし、勝手に名前を使われただけ」
と繋がりが一切無いかのように証言していた。一方の英治氏は、
「息子の妻は、高校2年生の時に何か思想的な理由があって、私の宗教団体に入った。どちらかと言うと引き篭もりだ。そういう人の面倒をたくさん見ている」
と全く正反対のことを証言した。
普通のオジサンだと話を聞いてくれないから“会長”に
また、同社に会長職が無いにも関わらず、会長を名乗って活動をしているのも
「普通のオジサンだと話を聞いてくれないから、ハッタリで使った」
そうであるが、さまざまな経営上のアドバイスをし、「何かあった時に影響力を行使するため」に株式の51%を保持し、「私が怒れば、弟子はみんな怒る」状態だそうだ。このことから、同社とはかなり密接に関わっていたようだ。
また、同社からの収入について聞かれた際は激昂し、
「そんなことは知らないし、思い出しません。私は(お金のことをいちいち気にする)そんな人間じゃないんだから」
「なんだ貴様、人の会社に迷惑を掛けておいて!」
と大声で怒鳴る場面もあった。
尋問終了後は、やおら後ろを向いて傍聴席をなめ回すようににらみ付け、裁判官からは「早く退廷してください」とたしなめられるなど、それまでの証言もあわせて「脅し」「すかし」の世界で生きているような印象が与えられた。
このような人物を社内で会長と呼び、対外的にも会長と名乗ることを許している同社には、200店舗以上のチェーンを展開し、フランチャイズを募集している大企業として、大きな問題があるように感じられた。
次回公判は、9月19日の午後1時30分より東京地裁428号法廷で行われる予定。被告人の弁護人の山口貴士弁護士によると、「裁判は、まさに佳境に入っています。表現の自由ひいてはインターネットの自由のために、出来る限りのことをする。是非、応援して欲しい」とのこと。この事件の経過報告が行われている山口弁護士のブログも要注目だ。